ウドリー・コモンの悪夢
無邪気な少女が殺害される非道な事件を発端に、過去から連なる邪な悪意を、ハロウィーンにちなんで描く一編。稚気から「殺人を見たことあるよ」と口にした子が直後に抹殺されてしまう展開はサスペンスを感じさせますし、怪奇さと子供こそがハロウィーンの眼目ゆえの筋立てなのでしょう。更に魔女伝説もプラスされていますが、総じて、超自然のムードにはいささか乏しく、むしろ子供たちが躊躇ない悪意の手にかかる筋立てや、犯人の動機と心理の身勝手さこそに尋常ならぬおぞましさが感じられます。
原作では、舞台となるウドリー・コモンに退職したスペンス元警視が住んでいるという設定ですが、以前にも触れましたように、本ドラマシリーズでは『マギンティ夫人は死んだ』の後、彼が登場する回はありません。

いたずらかおごり
ハロウィーンは、元々は古代ケルト民族の祭が発祥と云われています。１０月３１日は彼らにとって年の終わりとなる節目で、この時期はあの世とこの世の境界が開き、死者の霊が家に帰って来ると信じられていたそうです。しかし、やはり境界を通って出てくる有害な霊や魔女から身を守るため仮面を被り、焚き火を焚き魔除けをしていたということです。
ハロウィーンを祝うのは主として英語圏の地域で、日本では近年まで、特に米国の生活文化からその様子を窺い知ることが多かったようです。即ち、子供たちが仮装して近所の家々を訪ね、「ＴＲＩＣＫ ＯＲ ＴＲＥＡＴ！」、つまり「おごってくれなきゃ、いたずらするぞ！」と問いかけ、住人の大人が用意していたお菓子や小銭を貰って回るというもので、子供たちにとってさぞかし楽しいものであろうことは想像に難くありません。

メイドとレディー
教会でオルガンを弾くウィチカー先生に扮するフィネラ・ウールガーは、『エッジウェア卿の死』では渦中の女優ジェーン・ウィルキンソンのメイドで、ある証拠の所有者エリスを演じていました。 遺産を遺したスマイス夫人役として僅かに回想シーンに登場するフィリダ・ロウは、『なぞの盗難事件』ではサー・ジョージ・キャリントンのブリッジ好きの妻、レディー・キャリントンを演じました。女優のエマ・トンプソン、ソフィー・トンプソン姉妹は彼女の娘で、妹の方は本話において哀れな少女ジョイスの母親レイノルズ夫人に扮しています。