2005年作品
製作:トレヴァー・ホプキンス、監督:モーリス・フィリップス、脚本:フィロミーナ・マクドナー
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:高橋 剛、日本語版翻訳:たかしま ちせこ
出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
※ ※ ※
ギルバート・エントウィッスル … ロバート・バサースト/磯部 勉
モード・アバネシー … アンナ・カルダー=マーシャル/峰 あつ子
ジョージ・アバネシー … マイケル・ファスベンダー/宮内 敦士
ロザムンド … フィオナ・グラスコット/林 真里花
ヘレン・アバネシー … ジェラルディン・ジェイムズ/香野 百合子
マイケル・シェーン … ジュリアン・オヴェンデン/福田 賢二
スザンナ・ヘンダーソン … ルーシー・パンチ/五十嵐 麗
ジョバンニ・ガラチオ … アンソニー・ヴァレンタイン/辻 親八
ティモシー・アバネシー … ベンジャミン・ホイットロウ/青野 武
ミス・ギルクリスト … モニカ・ドーラン/小野 洋子
あらすじ
リチャード・アバネシーの葬儀の後、彼の遺言が発表された。全てを相続すると思われていた甥のジョージが相続人から外された事に親類一同は驚きを隠せず、またリチャードの妹コーラの「兄さんほんとは、殺されたんでしょう?」という言葉によって、その場は異様な空気に包まれる。その翌日、コーラが惨殺され遺体で見つかった。しかも葬儀の間に屋敷の権利書が盗まれたことから、弁護士ギルバートはポワロに捜査を依頼する。
リチャード・アバネシーの葬儀の後、彼の遺言が発表された。全てを相続すると思われていた甥のジョージが相続人から外された事に親類一同は驚きを隠せず、またリチャードの妹コーラの「兄さんほんとは、殺されたんでしょう?」という言葉によって、その場は異様な空気に包まれる。その翌日、コーラが惨殺され遺体で見つかった。しかも葬儀の間に屋敷の権利書が盗まれたことから、弁護士ギルバートはポワロに捜査を依頼する。
本格派ミステリの醍醐味
欲望渦巻く富豪の一族とその関係者。奇妙な一言をきっかけに始まる殺人。暴かれる秘められた事情。そして最後に示されるのは当初から登場していた、意外極まる犯人。原作は評論筋からクリスティ作品の十指に数えられる傑作のひとつで、ドラマもミステリのスタンダードを踏襲したクリスティならではの一作に仕上がっています。本編中には解決に結びつく伏線が明確に提示されており、集中して鑑賞すれば結末前に真犯人の見当がつく筈なので、謎解き本来の醍醐味を存分に御賞味下さい。 いまひとつの見所は、CGに頼らない美術。舞台として使用された風格と趣ある屋敷がそのまま実在する個人所有のものという豪華さに、英国文化の優雅さが垣間見えるようです。
ユーモアの復活
トレヴァー・ホプキンス製作の作品群で軌道修正され始めた作品タッチとして、第9シリーズでは明確に廃されていたユーモアの風味が幾らか復活し、各話それぞれの形で織り込まれています。本話では英国風ブラック・ユーモアと言うべきか、題材の暗さに反し、奇抜な導入部や、傲慢でユニークな登場人物たちとポワロのキャラクター描写に、独特の風味が感じ取れます。 更に、ポワロがエントウィッスル相手に見せる掛け合いや、真相が暴露した後の犯人の落差ある変貌等は、本シリーズが常套としてきたタッチとして懐かしい一方、マーガレット・ミッチェル作品の特徴のひとつだった"ポワロの孤独の影"を受け継ぐ本話でもあります。単に謎解きの王道プロットを踏まえた一編と言うより、ミッチェル時代もふくめてシリーズが培ってきたエッセンスを行儀よくまとめた、サンプル的一本と言えるかもしれません。
20年後の共演
期せずして重要な手がかりをもたらすヘレン・アバネシーを演じるジェラルディン・ジェイムズは、'70年代半ばからコンスタントに活躍しているイギリスの女優。映画では『ガンジー』(1982)や『シャーロック・ホームズ』(2009)等でその顔を見られますが、TVの活躍が多く、本ドラマシリーズの創始者ブライアン・イーストマンが手がけた1985年のミニ・シリーズ『BLOTT ON THE LANDSCAPE』で、デビッド・スーシェと共演済み。スーシェは口髭を生やした便利屋に扮し、その役がきっかけでイーストマンからポワロ役のオファーを受けました。20年を経た本話での再共演は、さぞや感慨深いものだったことでしょう。