1996年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:アンドリュー・グリーブ、脚色:アンソニー・ホロウィッツン
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子
出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
※ ※ ※
エロイーズ・ルノー … ダイアン・フレッチャー/寺田 路恵
ポール・ルノー … ダミエン・トーマス/麦人
ジャック・ルノー … ベンジャミン・プレン/宮本 充
バーナデット・ドブレイ … ケート・フェイ/達 依久子
マルト・ドブレイ … ソフィー・リンフィールド/日野 由利加
ベラ・デュヴィーヌ … ジャシンタ・マルケヒイ/小山 茉美
ジロー … ビル・ムーディ/大平 透
ベクス … バーナード・ラサム/矢田 稔
あらすじ
フランスのリゾート地、ドービルに滞在していたポワロとヘイスティングスは、ある事業家の殺人事件を手がけることになる。被害者は、ポール・ルノーという南米で事業を手がけていた男性。調査の中でルノーが、10年前のある殺人事件に絡んでおり、さらに、近くに被害者家族かつ加害者と疑われた家族が住んでいることも判明する。過去の事件と今回の事件に関わりはあるのだろうか?一方、ヘイスティングスは美しき歌手のベラに心奪われていた。
フランスのリゾート地、ドービルに滞在していたポワロとヘイスティングスは、ある事業家の殺人事件を手がけることになる。被害者は、ポール・ルノーという南米で事業を手がけていた男性。調査の中でルノーが、10年前のある殺人事件に絡んでおり、さらに、近くに被害者家族かつ加害者と疑われた家族が住んでいることも判明する。過去の事件と今回の事件に関わりはあるのだろうか?一方、ヘイスティングスは美しき歌手のベラに心奪われていた。
中期にして初期の作
有名な仏のリゾート地ドービルに休暇で訪れたポワロとヘイスティングス。ポワロの目当てである美食にかこつけ、ゴルフ・ホテルに泊まってゴルフ三昧を決め込もうとしたヘイスティングスは、コースで死体を発見し、ホテルでは胸ときめく美女に出遭います。一方、この旅先で突然に不明の依頼をされたポワロは、その依頼主の失踪に端を発する事件の解決を、フランス警察の強気な警部と競い合うことに…。
例によって、複層する別々の思惑が真相をカモフラージュする謎となり、ポワロは過去の出来事を支点にもつれた謎を解きほぐします。リゾート地に、ライバル警部と、娯楽要素も多いですが、事件の裏に隠された情熱や、複雑な思いを強いられるヘイスティングスの恋愛など、叙情的ムードの色濃い一編です。 ドラマの順列のみならず、ラストのヘイスティングスの境遇を見ても、シリーズ中期を思わせる本話ですが、しかし原作では、ポワロの長編として『スタイルズ荘の怪事件』に次いで書かれた、クリスティ著作における極めて初期の作品です。
愛弟子の成長に幸あれ
純情なるヘイスティングを魅了した謎多き女性ベラ。想いは募り、その存在はやがて、彼にとって唯一とも云うべき女性へと昇華していきます。しかしながら原作における彼女の設定は、ベラとダルシーと云う姉妹として登場しており、更にヘイスティングスが愛するのも妹ダルシーの方。ドラマでは、デュヴィーヌ姉妹はベラ一人に統合されました。
このヘイスティングスの恋路が、事件と共にもうひとつの縦軸となる本話。『スタイルズ荘の怪事件』では、失恋し気落ちする彼に、ポワロは指南を申し出ました。そして、これまでの短編諸作において探偵術と共に、"深遠なる女性心理"の手ほどきが為され、本話で遂にひとつの成果を迎えた格好です。エピローグで、師匠ポワロが弟子に贈った思いやりが泣かせます。原作の初期における設定を、ドラマではヘイスティングス、ひいてはシリーズ自体の成長タームとして活かしたと言えるでしょう。
レアな一本
危機を予感し、ヘイスティングスと共に夜のルノー宅を見張るポワロ。その手には、あまり見かけぬ仕様のステッキが。愛用のスワンや観光地用と違い、フォーマルな場で使いそうなスタンダードな握りのものですが、実はこれ、『黄色いアイリス』でも、二度目の殺人発生が予見されるフランス料理店"白鳥の庭"へ向かおうとする時に携えていました。その際はとにもかくにもディナーの席でしたが、今回はそうしたマナーとは無縁のケース。「銃は、計算に入っていなかった!」とのセリフからしても、どうやら護身用に使う棍棒を兼ねた一本と考える方が、妥当そうです。