ポワロ危機一髪
"決闘"をモチーフにした本話では、時代を偲ばせるセピア調に彩られたプロローグ、及び、謎解きに引き続いて真犯人に引導を渡す解決編にて、剣による白熱の闘いが描かれています。特に後者は、剣先を突きつけられ怯えるポワロが一興。もしかするとここで一転、名探偵の素晴らしい剣さばきによる反撃が見られるのではという期待を抱かせますが、残念ながらやはりそういうことにはなりません。とは云え、肉体を使ったアクションをも堪能できる、本シリーズにおいては特徴的な一編です。
ついでながら、序盤では"オペラはもうウンザリ"といった態で俗っぽさを強調されるヘイスティングスが、中盤では短いシーンながら、クレイトン夫人の危機を救おうと敏に寡黙に活躍する、その頼もしい様にもご一目下さい。

時代遅れの愚行
西洋の"決闘"と云えば、相手に手袋を投げつけて申し込み、剣あるいは銃を使って、それぞれの名誉を賭けた紳士が正々堂々と立ち合う。大雑把にそんなイメージを抱きがちですが、劇中でクレイトン夫人を巡る決闘の話を聞いたヘイスティングスが、「イギリスで!?」と驚いている様に、少なくとも１９３０年代のイギリスでは、そうした行為はもはや過去の出来事であったようです。もともと決闘は裁判で決着がつきそうもない際に行われた、つまり裁判制度の一種であったと云います。しかしイギリスでは、私闘の決闘は早くから禁じられていた上、１８５２年には法律によって決闘自体が禁止されたそうです。

個性派の出演者たち
頑なで眼光鋭いリッチ少佐役のピップ･トレンスは、本シリーズ後盤の『満潮に乗って』にて、主要人物の一人ジェレミー役として再登板します。また、複数の男性を惑わせるクレイトン夫人役のキャロライン・ラングリシュは、本シリーズのスタート前にポワロ役として最も評価の高かったピーター・ユスティノフがポワロを演じた米ＴＶ作品『死者のあやまち』（１９８６）にも出演済みです。
老練な傲慢さが印象的なカーチス大佐に扮するジョン･マケナリーは、"決闘"を軸に描いたリドリー・スコット監督黎明期の傑作映画『デュエリスト／決闘者』(１９７７)に出演しています。酷な殺され方をした哀れなクレイトン氏に扮するマルコム・シンクレアは、ダニエル・クレイグが００７役初登板となった『カジノ・ロワイヤル』(２００６)で、ボンドに非情に抹殺されるドライデン役も印象的な俳優です。