1991年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:アンドリュー・ピディントン、脚色:アンソニー・ホロウィッツ
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子
出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス大尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
ジャップ主任警部 … フィリップ・ジャクソン/坂口 芳貞
ミス・レモン … ポーリン・モラン/翠 準子
※ ※ ※
ベラ・ロサコフ伯爵夫人 … キカ・マーカム/久野 綾希子
マーカス・ハードマン … デビッド・リオン/前田 昌明
バーナード・パーカー … デビッド・バンバー/鈴置 洋孝
レディー・ランコーン … チャーミアン・メイ/京田 尚子
ジョンストン氏 … ニコラス・セルビー/山内 雅人
レッドファーン … マイケル・パッカー/塚田 正昭
ブレーク … ウィリアム・チャブ/秋元 羊介
あらすじ
ジャップ警部は、上流階級を狙った連続盗難事件をポワロに相談していた。「待つしかない」というポワロの言葉通り、宝石収集家のガーデン・パーティーで事件が起こる。現場には男物の手袋とイニシャル"BP"が刻まれたシガレットケースが残されていた。ところがロシアから亡命中の伯爵夫人に夢中のポワロは、まるで事件を忘れてしまったかのようだった。そこで、ヘイスティングスとミス・レモンは2人で捜査を始めるが…。
ジャップ警部は、上流階級を狙った連続盗難事件をポワロに相談していた。「待つしかない」というポワロの言葉通り、宝石収集家のガーデン・パーティーで事件が起こる。現場には男物の手袋とイニシャル"BP"が刻まれたシガレットケースが残されていた。ところがロシアから亡命中の伯爵夫人に夢中のポワロは、まるで事件を忘れてしまったかのようだった。そこで、ヘイスティングスとミス・レモンは2人で捜査を始めるが…。
ポワロの思慕
"ポワロ、一目惚れする"と云った態の本話。ヘイスティングスに女性心理の何たるかを説きつつも、現役としては女性の気配を全く窺わせなかったポワロですが、宝石盗難事件の現場にてロサコフ伯爵夫人を一目見た時から終始、彼女との相伴に夢中の様子。ジャップがクビになりかねない重大事件を放っといて…と思いきや、その灰色の脳細胞は曇ることなく、事件の本質を捉えます。
なお、ポワロを惑わした麗しいロサコフ伯爵夫人は、本シリーズ中盤『メソポタミア殺人事件』でポワロとの交流を窺わせ、最終話直前の『ヘラクレスの難業』にて再び登場します。
盟友の為に
いつにも増して深刻な面持ちでポワロを訪ねるジャップ。「何か問題でも?」「私のクビです!」最上流の名門を舞台に盗難が連続し、その解決の至上命令を総監に突きつけられた彼はいささかのてらいもなくポワロに助け舟を求め、ポワロもまたそれを至極当然と請けます。例によって解決編に至るまでジャップにはポワロの行動の本質がなかなか見えず、今回は悲壮感すら漂わせますが、もちろん最後にはポワロの頭脳によって無事宝石を取り戻します。と、こうして本話に至り、ポワロとジャップの間柄は既に腕を競うライバル関係ではなくなっていることを再認識できる一編です。以前のポワロは、ジャップがスコットランド・ヤードで大恥をかこうが関知せずと云った気配の時期もありましたが、数々の事件を経て互いの手腕を認め合い、本話ではもはや、共に事件に対する同志を救うのは当然と云った呼吸なのでしょう。以降、この盟友関係はより明確に親密さを増していきます。
もっとも今回は、これまでの事件と比べればかなり異例な解決で、ジャップの危機を救った結果ながらも、その仕方は大陸一の名探偵として甘いとすべきか渋いと言うべきか、評価の分かれるところでもあります。
名探偵はあと二人
ジャップの危機を見かねて、伯爵夫人とのデートに現を抜かすポワロに代わり調査に乗り出すヘイスティングスとレモン。その努力も結局は空振りに終わってしまう…どころか、真実に通ずるシンプルさで物事を捉えるヘイスティングスは、ポワロが用意した解決編の中で、事件のほぼ核心にまで迫ります。そしてどうやらレモンがその意味に気付いた様子。エピローグの直前、レモンが物憂いポワロへ意味深げに声をかける、短いシーンにもご注目を。