英国テレビ文庫itvコレクション名探偵ポワロ徹底解説 名探偵ポワロ徹底解説TOP 英国テレビ文庫itvコレクション特設サイト マースドン荘の惨劇

1991年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:レニー・ライ、脚色:デビッド・レンウィック
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子

マースドン荘の惨劇

出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス大尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
ジャップ主任警部 … フィリップ・ジャクソン/坂口 芳貞
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ジョナサン・マルトラバース … イアン・マクロック/有本 欽隆
スーザン・マルトラバース … ジェラルディン・アレクサンダー/戸田 恵子
ブラック大尉 … ニール・ダンカン/小川 真司
ミス・ローリンソン … アニタ・ケアリー/藤 夏子
サミュエル・ノートン … デズモンド・バリット/吉村 よう
ダンバース … ラルフ・ワトソン/石森 達幸
バーナード医師 … エドワード・ジューズバリー/松岡 文雄

あらすじ
自分に高額保険をかけたばかりのマルトラバースが、庭の大木の下で死んでいるのを発見される。死因は内出血だが、庭には死者が引きずられたような痕跡が残されていた。美しい未亡人スーザンは、大木にまつわる少女の霊を見た夫がショック死したのではないかと言う。彼女は医師から夫が、ショックで潰瘍が再発した場合に死ぬ可能性もあると聞いていたのだ。本当に幽霊がいるのか?ポワロは灰色の脳細胞を駆使し、事件解決に挑む。

真相の怪奇
ミステリ・マニアなホテルの主ノートンや、ポワロ本人も知らぬ間に作られていた蝋人形など、恒例のコメディ・リリーフもしっかり織り込まれている反面、マースドン荘の主人マルトラバースの不慮の死を巡る事件はプロローグから犯人逮捕に至るまでオカルト・タッチに貫かれた、怪奇編とも言うべき本話です。
もちろん真相は超自然現象ではなく真犯人の奸計である訳ですが、幽霊の仕業へと視聴者をミスリードする演出は、怪奇さの目くらましによってなかなか効果的。ただし、暴かれた犯行の酷さは、正しく怪奇と言えるほどおぞましいものです。

怪奇のマスク
また、マースドン荘にまつわる幽霊の噂以外にも、デスマスクが陳列された蝋人形館、更には、民間防衛訓練に集ったガスマスク集団の描写が、本話における怪奇色を一層、増幅させています。殊に後者、無機質な表情のデザインが産む不気味な集団のムードが、防衛訓練の場自体の不条理さを醸し出しているところもポイントです。
なお、このガスマスク装着の訓練シーンは、1930年代後半の軍事的危機を背景としたものです。ドイツの不穏な動きを前に軍事衝突の予感が現実味を帯びていく中で、空爆と共に民間人への脅威として恐れられたのが化学兵器、即ち毒ガス攻撃でした。その防護策としてイギリス政府は、人口の半数以上にあたる3千万個以上のガスマスクを配り、こうした各地方共同体の集会や学校にて、使用方法を教習したそうです。

口髭つながり?
エピローグとなる蝋人形展示の場面では、ポワロ人形とチャップリン人形が並ぶ傍ら、ちらりと"MODERN TIMES"の文字が見えます。オーバーオール姿でこそないもののこの人形が、映画『モダン・タイムス』にちなんでいるとするなら、本件は恐らく、映画が公開された1936年2月の前後から第二次大戦開戦の1939年9月の間に起きた出来事なのでしょう。
ちらりと云えば、我らが主任警部愛用の扇風機。本話では、彼の部屋のどの辺りにディスプレイされているのか、わずかに映るそのシーンを、ジャップ"ファン"はお見逃しのなきよう。
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