1991年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:アンドリュー・グリーブ、脚色:アンソニー・ホロウィッツ
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子
出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス大尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
ミス・レモン … ポーリン・モラン/翠 準子
※ ※ ※
ショー氏 … デビッド・クィルター/阪 脩
ババソア氏 … ユーアン・フーパー/富田 耕生
マクニール氏 … ポール・ヤング/大木 民夫
ミランダ・ブルックス … リジー・マキナニー/一柳 みる
フィリップ・リッジウェイ … オリヴァー・パーカー/大塚 芳忠
エズミー・ダルグリーシュ … ナタリー・オーグル/土井 美加
トム・フランクリン … キエロン・ジェキニス/津田 英三
あらすじ
ニューヨークへ100万ドルの米国債を運ぶことになったロンドン・スコティッシュ銀行は、ポワロに同行を依頼する。というのも、債券を運ぶ予定のショーが車に轢かれかけ、さらに毒入りのコーヒーを飲んで倒れたからだった。ポワロは、ショーの代理となったリッジウェイと厳重に鍵をかけられた債券入りのトランクと共にアメリカ行きの船に乗り込む。しかしニューヨーク入港前夜、トランクの鍵は開けられ、債券が消えてしまう。
ニューヨークへ100万ドルの米国債を運ぶことになったロンドン・スコティッシュ銀行は、ポワロに同行を依頼する。というのも、債券を運ぶ予定のショーが車に轢かれかけ、さらに毒入りのコーヒーを飲んで倒れたからだった。ポワロは、ショーの代理となったリッジウェイと厳重に鍵をかけられた債券入りのトランクと共にアメリカ行きの船に乗り込む。しかしニューヨーク入港前夜、トランクの鍵は開けられ、債券が消えてしまう。
観終わったら、是非もう一度
恒例のリゾート編と違い、警護として船に乗り込み、しかもニューヨーク到着も束の間のとんぼ返りで、イギリス以外のシークエンスは専ら船中での描写のみの本話。とは云え、海を隔てた船とイギリスとで、人物や出来事がリンクして100万ドル債券を盗み出す謎を構成すると云う、なかなかスケールの大きなプロットです。
そして、本話を作り上げたキャストとスタッフの努力は、この種のミステリ・ドラマとしては、かなりの成果を上げていると思われます。いつもながらのお勧めになりますが、ポワロによる解決まで謎を見抜くに至らなかった方は、是非とも最初から見直し、その努力をご確認頂くことも、本話の一興となるでしょう。
"船旅編"のエポック・メーキング
『誘拐された総理大臣』でヘイスティングスが示唆していた通り、ポワロはひどい船酔い体質の様子…。はてしかし、『砂に書かれた三角形』ではロードス島で官憲に引き止められて船に乗れずに絶叫していたし、『海上の悲劇』ではヘイスティグスと共に船旅を満喫していた筈。それから、後々に控えし大作『ナイルに死す』でも、嬉々として豪華船に乗り組んでいます。 本シリーズは、ロンドンで名探偵として名を馳せる盛んな時期から、やがて一旦は探偵を引退、更に復帰してから晩年へと移り行く大きな流れはありますが、前日譚『スタイルズ荘の怪事件』の例もあるように、その時代その時代の中での事件の発生序列は、必ずしもドラマの順序通りとは限りません。
そうなると『誘拐された総理大臣』は本話より以前、『砂に書かれた三角形』や『海上の悲劇』は、本話にて見事、難民として渡英して来た時から続く船酔い体質を克服した、その後の物語と考えることも出来ます。
ヘイスティングスの知恵
今回のエピローグでは、事件が解決してもなお解けない、大いなる謎に物憂げなヘイスティングスが描かれます。女性に関する根源的命題を口にした愛弟子の、その思わぬ言葉に、嬉しそうに微笑む師匠ポワロ。「知恵がついてきましたね、モナミ。」
"秩序と方法"による探偵術の習得はなかなかはかどりませんが、女性心理というものを知るべきとする教えの方はどうやら着実に身に付いている様子。それはやがて大きな実となり、ヘイスティングスにもたらされることでしょう。