蒔かれた謎
老婦人から不可解な空の種袋を渡されたポワロが事務所に戻ると、当の老婦人から救いを求める依頼の手紙が既に届いており、訪ねてみると死亡していたという、ミステリ・ファンの興味をそそる風変わりなプロット。空の種袋の意味もさることながら、前話『スタイルズ荘の怪事件』と同じくストリキニーネを用いた殺人手段や、謎めいたロシア女性カトリーナの存在と、多方向に謎が蒔かれています。それから、ポワロに追い詰められた犯人の往生際の悪さと、その顛末もちょっとした見処です。
個性的なタイトルは、ポワロが謎を解くきっかけに通じる、おなじみマザー・グースの唄にちなんだもの。それからポワロがソビエト大使館でニコライにかまをかけ「マルクスが大衆の阿片と言ったのは何でしたか？」と問う内容は、カール・マルクスが1843年の著作『ヘーゲル法哲学批判序説』で記したものです。

ガーデナー、ポワロ
ピンクのバラとなったポワロが自身で語っているように、現在はマンション住まいの為に本格的には出来ないものの、園芸はポワロの趣味のひとつ。後々のラインナップとなりますが、彼が探偵業から引退し田舎で暮らす日々に遭遇した事件を描く『アクロイド殺人事件』では、我が家の庭園にて、手塩にかけて野菜を育てる毎日を送っています。

完璧なファイル
今回は謎の花粉症？に悩むヘイスティングスに代わり、ミス・レモンがポワロのお供をして現場ヘと参じます。留守を預かるヘイスティングスは、彼女が築いた膨大なファイルをかきわけ、たった一枚の請求書を捜す羽目に。それが自分にどう関係するものの代金なのかも知らずに。
有能極まる秘書ミス・レモンの信条は、ポワロさえ脱帽ものの、完璧なる資料の分類ファイリングです。それゆえに「私のファイルは絶対、いじらないで下さいね」とヘイスティングスに釘を刺すわけですが、にも関わらず惨状と化した自分の仕事部屋を目の当たりにしてレモンが烈火のごとく怒ったのも、決して支払いの件についてだけではないでしょう。