1990年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:ロス・デベニッシュ、脚色:クライブ・エクストン
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子
出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス中尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬
ジャップ警部 … フィリップ・ジャクソン/坂口 芳貞
※ ※ ※
メアリ・カベンディッシュ … ビーティ・エドニー/幸田 直子
ジョン・カベンディッシュ … デビッド・リントゥール/ 樋浦 勉
イングルソープ夫人 … ジリアン・バーグ/阿部 寿美子
アルフレッド・イングルソープ … マイケル・クロウニン/銀河 万丈
イビー・ハワード … ジョアンナ・マカラム/野沢 雅子
ローレンス・カベンディッシュ … アンソニー・カルフ/田中 正彦
シンシア・マードック … アリ・バーンズ/安達 忍
ウェルズ氏 … モリス・ペリー/山内 雅人
あらすじ
ヘイスティングス中尉は、旧友の招待でスタイルズ荘を訪れていた。スタイルズ荘のある村には、亡命中で元ベルギー警察のエルキュール・ポワロがおり、旧知の2人は、再会を果たす。スタイルズ荘では、屋敷の主イングルソープ夫人とその若い夫を巡って不穏な空気が流れており、遂に夫人が毒殺される。ポワロとヘイスティングス、スコットランド・ヤードのジャップ警部は、事件の捜査を始めるのだった。
ヘイスティングス中尉は、旧友の招待でスタイルズ荘を訪れていた。スタイルズ荘のある村には、亡命中で元ベルギー警察のエルキュール・ポワロがおり、旧知の2人は、再会を果たす。スタイルズ荘では、屋敷の主イングルソープ夫人とその若い夫を巡って不穏な空気が流れており、遂に夫人が毒殺される。ポワロとヘイスティングス、スコットランド・ヤードのジャップ警部は、事件の捜査を始めるのだった。
100周年記念のプリクエル
原作はアガサ・クリスティが初めて書いた探偵小説で、従ってポワロ初登場となる物語。しかしながら本ドラマシリーズは既に、ヘイスティングスと共にロンドンで活躍する著名な探偵ポワロありきという前提でスタートを切っている為、本話は、第2シリーズが終了したタイミングに挿入された前日譚の位置づけになります。シリーズの起源と云うだけでなく、本格ミステリとしても屈指の出来栄えで、いずれにしても本シリーズにおける記念碑的な一編であり、クリスティの生誕100周年を記念するスペシャル編として放送されました。
なお、先の『エンドハウスの怪事件』も実質的な長編ですが、本国イギリスでは前後編に分けて放送されたので、本話がこのシリーズでオンエアされた初の長編ドラマ作品となります。
それぞれの出遭い
描かれる時制としては、第一次大戦の終戦間際。シリーズの方は1930年代半ばを中心に描かれているので、そのおよそ20年ほど前に遡る物語となります。ミス・レモンこそまだ登場していないものの、本話においても既にポワロはヘイスティングス、そしてジャップと旧知の仲。そのきっかけとなった「アバクロンビー偽造事件」、および"ヘイスティングスの猟銃と同型の凶器を使った犯人をポワロが追った事件"は本話中で語られるのみで、原作においても物語化はされていません。
道を説く先達
ポワロのデビュー作にあたる物語だけあって、その探偵術をはじめとする偉才ぶりも原点のスタイルとして分かり易く説明され、また捜査道具を詰めた鞄を持ち歩くなど、シリーズではあまり見られなくなる初期設定的な特徴も描かれます。
そんな本話の経緯を経て、若きヘイスティングスは敬愛するポワロに云わば師事することと相成るわけですが、その後の二人の関係はシリーズでの描写を見る限り、相棒や雇用関係というより、正しく師弟関係や親子のそれに近いもの。豊かな知性と経験を兼ね備えたこの師匠は子供の様にピュアでシンプルな愛弟子に、探偵術や謎に満ちた事件の真相のみならず、人生の様々な機微を事あるごとに説きます。そしてその教えの筆頭は恐らく、本話が示す通り"女性の心"なのでしょう。
創始にして終結のステージ
文字通りポワロの冒険の出発点である本作ですが、スタイルズ荘は、その終着点となる物語、『カーテン ~ポワロ最後の事件~』の舞台ともなります。
デビッド・スーシェはおよそ四半世紀を経て遂に念願だったこの最後のポワロを演じ切り、本ドラマシリーズも2013年の放送にて晴れて完結を迎えました。