英国テレビ文庫itvコレクション名探偵ポワロ徹底解説 名探偵ポワロ徹底解説TOP 英国テレビ文庫itvコレクション特設サイト 第三の女

2008年作品
製作:カレン・トラッセル、監督:ダン・リード、脚本:ピーター・フラナリー
日本語版プロデューサー:武士俣 公佑、間瀬 博美、日本語版演出:佐藤 敏夫、日本語版翻訳:中村 久世

第三の女

出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ジョージ … デビッド・イェランド/坂本 大地
アリアドニ・オリヴァ … ゾーイ・ワナメイカー/山本 陽子
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ノーマ・レスタリック … ジェミマ・ルーパー/林 真里花
クローディア・リース=ホランド … クレメンシー・バートン=ヒル/安藤 麻吹
フランシス・キャリー … マティルダ・スターリッジ/岡村 明美
デビッド・ベイカー … トム・マイソン/みやざこ 夏穂
ネルソン … ジョン・ワーナビー/大川 透
アンドリュー・レスタリック … ジェームズ・ウィルビー/てらそま まさき
ロデリック・ホースフィールド卿 … ピーター・ボウルズ/金子 達
バタスビー先生 … ヘイドン・グウィン/野沢 由香里

あらすじ
「人を殺したかも知れない」ある朝、ひとりの女性がポワロを訪ね、そう言い残し去っていった。彼女は作家のオリヴァ夫人と同じマンションに住むノーマだった。その日、建物の1階に住むノーマの乳母が遺体となって発見される。ノーマが殺したというのは、果たして彼女なのか?複雑な過去を持ち、精神的に不安定なノーマを見守りながら、犯人は別にいると考えるポワロと秘密の真相が知りたい夫人は捜査を開始する。

ポワロの目に涙
自分は人を殺したかもしれないというノーマの夢現な告白に次いで、発見される死体。幻想のような意識が現実化する奇妙な味は、クリスティの持ち味のひとつです。殊に、原作小説の序盤は誰が何処で死んだのかも判らぬ不思議なムードに終始しますが、すぐに死体が見つかるドラマ版ではミステリアスなムードよりも不合理を合理化させていくダイナミズムが重視されているようです。
"第三の女"と云うタイトルも、ドラマでは"住まいをシェアする女性トリオの三番目"の意味を逸脱していませんが、小説ではその向こうに更なる暗示が拓け、それが原作の肝とも言える構造になっています。本話のラスト、サード・ガールに対して、孤独と愛の欠如も顕著なポワロが光らせた涙こそ、ドラマの真の主題と言えるかもしれません。

偉大な探偵の著
冒頭、"秩序正しい朝食"に手をつける前に、ポワロがためつすがめつ眺めている『犯罪小説 鑑定と分析』は、ポワロの著書。原作の設定では『複数の時計』にて展開されていますが、犯罪小説の批評はポワロの晩年の趣味のひとつです。
なお、その表紙には"by Hercule Poirot The Celebrated Detective"、即ち"名高き探偵、エルキュール・ポワロ著"と記されているようです。

プロフィール:アリアドニ・オリヴァ
ポワロの制止をよそに捜索や尾行へのめり込み、挙句、殴打の憂き目に遭っても、溢れる好奇心に止め処のないオリヴァ夫人。原作にももちろん登場しているキャラクターで、元々はクリスティ作品の主人公の一人である"幸福相談人"こと、パーカー・パインが営む事務所の職員。後にはポワロの友人である探偵小説家として活躍しています。
パインにまつわる前身こそ触れられませんが、ドラマの彼女もその設定をほぼ引き継ぐ、好奇心旺盛な小説家。自ら車を駆って立ち回る活動的な性格、格好は派手で、大好きなリンゴを食い散らかす様ながさつな面はポワロも眉をひそめるところ。堂々と述べる推理は自ら漏らすようにほぼ直感に頼ったものながら、その言にポワロはなかなか刺激を受ける様子。してみるとそのキャラクターは、ヘイスティングスとジャップとレモンの要素をミックスしたような感もあり、ポワロと相性がいいのも当然でしょうか。
 クリスティ作品中で最も作者に似たキャラクターとも言われており、自著の老主人公スベン・ヤルセンのキャラクターに憂鬱なものを感じていると思しき彼女の描写は、正にそれを思わせます。
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