1990年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:エドワード・ベネット、脚色:クライブ・エクストン
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子
出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス大尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
ジャップ主任警部 … フィリップ・ジャクソン/坂口 芳貞
ミス・レモン … ポーリン・モラン/翠 準子
※ ※ ※
フリーダ・スタントン … クロエ・サラマン/弥永 和子
ジェイコブ・ラドナー … ジョン・ボウラー/堀 勝之祐
エドワード・ペンゲリー … ジェローム・ウィリス/大木 民夫
ペンゲリー夫人 … アマンダ・ウォーカー/公卿 敬子
ジェシー・ダウリッシュ … ティリー・ヴォズバーグ/一城 みゆ希
アダムス医師 … デレク・ベンフィールド/松岡 文雄
あらすじ
裕福な歯科医夫人が、夫に殺されそうだとポワロのもとにやって来る。翌日、ポワロはコーンワルにある夫人の家を訪ねるが、既に夫人は殺されていた。彼女を取り巻く人々に事情を聞きながら、ポワロは意外な事実、そして秘められた人間関係をつかんだものの、そのまま捜査を中断してロンドンへ戻った。数ヵ月後、助手と婚約した夫人の夫が逮捕される。彼が犯人ではないと知るポワロは、裁判の合間に真犯人と直接対峙する。
裕福な歯科医夫人が、夫に殺されそうだとポワロのもとにやって来る。翌日、ポワロはコーンワルにある夫人の家を訪ねるが、既に夫人は殺されていた。彼女を取り巻く人々に事情を聞きながら、ポワロは意外な事実、そして秘められた人間関係をつかんだものの、そのまま捜査を中断してロンドンへ戻った。数ヵ月後、助手と婚約した夫人の夫が逮捕される。彼が犯人ではないと知るポワロは、裁判の合間に真犯人と直接対峙する。
ポワロ、自責の念にかられる
「許し難い愚か者だ、私は!」事の緊急性を見誤り、庇護を求めて来た者をみすみす死なせてしまった自らに対し、激しい怒りを見せるポワロ。やがて真犯人を見抜くも決め手を欠いた彼は、その捕縛の為、思い切った手段を取ります。
こうした悲劇的要素を持つ本話ですが、結末の解決編はブラックなユーモアの香り漂う静かなトーン。更にポワロとヘイスティングスが馬車に揺られジャップから逃げるように立ち去っていく幕切れは、田舎町の風情とも相まって、至って穏やかなムードで括られています。
たまには独りで
かなり先の回になりますが、シリーズ後半の『アクロイド殺人事件』では、ポワロが隠居した田舎町で事件が起こり、土地の警察でジャップとポワロが偶然に出くわします。久々の再会に共に快哉を叫び、当然協力してくれますよねと言うジャップに、ポワロは初め引退して長いからと渋りますが、「何言ってるんです、昔のようにやりましょうよ!」と発破をかけられ承諾するのです。
一方、まだシリーズ序盤を抜けきらない本話。コーンワルの田舎町で期せずしてポワロ達と顔を合わせたジャップ主任警部の第一声は「いやですよ、たまには私独りでやらせて下さいよ」でした。更にエピローグでは、ポワロに出し抜かれて恨みがましく拳を掲げてみせるなど、ジャップの初期の人物設定が明確に窺える一編です。
プロフィール:エルキュール・ポワロ[3]
忌み嫌う殺人から被害者を救えず悔やむポワロ。ここで、彼の内面的特徴のポイントについて簡単にご紹介します。性格的には既にお分かりの通り、調和を信奉し清潔を好み、雑然とした物事を極端に嫌います。対称・統一・規則性を重視し、家財は秩序正しく並べられ、小さなチリに気を使い、自他の服装の乱れはもとより、時計は秒単位の狂いを許さず、友人の遅刻も好みません。処世は万事、"秩序と方法"によって御し得るというのが持論です。
概して、コメディ・タッチに解釈されるこの気質ですが、驚異の探偵術もまたそこに由来すると思われます。即ち、その性分ゆえに、ばらつく事象を合理的に配置=推理し、整然とした事実=真相へと整えなければいられないわけです。
更に重要なことは、それが事件に臨む姿勢の本質でもあるだろうと云うことです。彼の倫理観とは悪行を正義に照らし清める徹底した潔癖さ。そして最も我慢ならない不調和とは歪んだ魂が為せる業、"殺人"である、と。