1989年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:レニー・ライ、脚色:マイケル・ベイカー
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子
出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス大尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
ジャップ主任警部 … フィリップ・ジャクソン/坂口 芳貞
※ ※ ※
バレリー・サンクレア … ニアム・キューザック/土井 美加
ヘンリー・リードバン … デビッド・スウィフト/滝口 順平
バニー・ソーンダース … ジョナサン・コイ/堀 勝之祐
モラニア国王子ポール … ジャック・クラフ/柴田 侊彦
ラルフ・ウォルトン … ゴウン・グレインジャー/中 庸助
オグランダー夫人 … エイヴリル・エルガー/小沢 寿美恵
ロニー・オグランダー … ショーン・パートウィー/辻谷 耕史
あらすじ
ポワロは、ヘイスティングスの友人が監督を務める撮影を見学するために、映画スタジオを訪れる。そこでは人気女優バレリーや往年のスター、ウォルトンに、プロデューサーのリードバンが横暴な振る舞いをしていた。ある夜、リードバンの自宅に呼び出されたバレリーが、書斎で彼の死体を発見し、近隣の家に助けを求めた。バレリーの恋人で旧知の仲であるモラニア国の王子に頼まれたポワロは、その夜の状況を克明に調べ始める。
ポワロは、ヘイスティングスの友人が監督を務める撮影を見学するために、映画スタジオを訪れる。そこでは人気女優バレリーや往年のスター、ウォルトンに、プロデューサーのリードバンが横暴な振る舞いをしていた。ある夜、リードバンの自宅に呼び出されたバレリーが、書斎で彼の死体を発見し、近隣の家に助けを求めた。バレリーの恋人で旧知の仲であるモラニア国の王子に頼まれたポワロは、その夜の状況を克明に調べ始める。
稀(まれ)な顛末
撮影所を牛耳るリードバンが不慮の死を遂げた雨の夜、現場である彼の家では、一体何が起きたのか?窓から見える隣家に答を見出すべく、その道を往復した途上で、ポワロは導いた答の重さを量る…。
ここで結末の詳細は明かしませんが、今回のポワロが真相に対し下した決断と処理は、シリーズでは異例、名探偵には特有のものと言えるでしょう。彼の内なる洞察力の自負、正義の信奉、友への信頼の揺ぎなさが感じられます。
ライバル、ジャップ
そしてポワロの下した決断は、ヘイスティングスに共有されますが、同じく欠かせぬ仲間でもジャップ主任警部には伏せられます。知らぬ由のジャップは、今回は出し抜かれずに済んだとばかりに「灰色の脳細胞も、万能ではないわけですな」と皮肉を言い、この時点での彼がポワロに対し、ヘイスティングスと違う向き合い方をしていることを視聴者に示します。
もっとも、これ即ち、ポワロがジャップを信頼していないというものでもなく、ヘイスティングスとジャップにおけるポワロとの関わりの方向性の違いと見るべきでしょう。事件を重ね、探偵人生を共にしたと言っていい中盤期でさえ、ジャップが警察の職に就いている限り、ポワロは彼の為にも秘密の共有を持ち掛けたりしないでしょうから。
ぶらり、最古のクマゴロー
リードバンの傲慢に怒りを隠さないラルフ・ウォルトンを演じたゴウン・グレインジャーはTV中心に活躍する俳優ですが、このシリーズでの出演クレジットは本話のみ。一方、シリーズ後期の『ひらいたトランプ』で初登場するレギュラー、ミセス・オリヴァー役を演じた女優ゾーイ・ワナメイカーは彼の妻で、それ以降も間欠的ながら活躍します。
さて、本話の日本語版において、リードバンを隙のない憎々しさで吹き替えた滝口 順平氏。オールド・ファンには、数ある氏の名演の中でもクマゴローや、『ヤッターマン』のドクロベエ等は忘れられない役でしょう。近年では、鉄道沿線を気ままに散歩する某番組の名物ナレーターとして万人に知られ、その親しみ満つるゆるやかな味わいの声が、かくも完璧な悪役を演じるギャップには驚かされます。正に、日本初の吹替外国TVドラマとなる1956年の『カウボーイGメン』から活躍、我が国における外国TVドラマを文字通り創生して来た立役者ならではの名演です。これらの偉業と、沿線散歩にかける気さくな声を偲びつつ、2011年に惜しくも他界された滝口 順平氏のご冥福を謹んでお祈り致します。